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光と影 [STS(科学技術社会論)]

 図書館で日経産業新聞を読んでいたら、1月13日号に「媒介する蚊の遺伝子操作でマラリアを絶滅させる研究」についての記事を見つけた。
 マラリアの原虫を媒介するのは「ハマダラカ」という蚊であるが、この蚊に遺伝子操作をした赤血球を入れ、蚊の体内でマラリアの原虫が死滅させるというのである。このため、この遺伝子操作を行った蚊を自然界に放って野生種と交配させればマラリアが絶滅できるのではないかという。もちろん、自然界に思わぬ影響を与えないように十分な事前調査が必要なことも書かれていたが、こういう問題は非常に難しい。
 良いことをやっているつもりなのに、結果として悪いことをしてしまったことになる場合がある(省資源化のためにペットボトルのリサイクルを行っているのに、実は新品を生産するよりも多くエネルギーを消費している)。いや、良いことであることにかわりはないのだが、別の良いことの邪魔をしてしまうということもある(環境にやさしいエネルギーである風力発電の風車が、伝統的景観を破壊するということでドイツでは反対運動が起きている)。
 マラリア退治でいえば古くはDDTという殺虫剤(農薬)がある。DDTは人体には直接影響を及ぼさないので、しらみ退治のために頭からふりかけた時代もあり、DDTによってマラリアは激減した。ところが、なかなか分解しないという特性のために土壌や水質に多大な影響を与えることになり、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」をきっかけに問題視され、結局ほとんどの国で禁止された。その結果、マラリアは再び増えだした(耐性の問題もある)。
 今回の話も、作り出された蚊を野生種と交配させることの影響がどのように出るのか、あらかじめ予想するのは難しいのではないだろうか。すごく役に立ちそうな研究なのに、なんというか”神の領域”には立ち入ってはいけないような気がします。遺伝子組み換え作物も同じ。我が国では実感ないけど、世界全体では人口が増えており、食糧危機のためにと、研究者は必死に多産できる食べ物の開発に取り組んでいます。でも、何かが起こってからでは遅い。やはり、対症処療というか、マラリアにかかってもすぐに治せるワクチンの開発、普及しかないのかなと思いました。


2006-01-19 20:16  nice!(3)  コメント(5)  トラックバック(0) 
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百合

元から変えてしまう事がきちんとかたづけるには最善の方法と思いますが、
自然が絡むとなるとそこはむずかしいですよね。
やはり対処法しかないのかな?
by 百合 (2006-01-19 23:26) 

ゾウ

良いことをやっているつもりなのに、結果として悪いことになるって言うのは
日常の生活の中でも あり得ることで 気をつけないとなあって思いました・・・。
マラリアがすぐ治るワクチンは ほんとは 沢山あったりしてね。。。
疑いたくなってしまったゾウでした。
by ゾウ (2006-01-19 23:42) 

kage

>百合さん、ありがとう。
元から変えて、ホントにきちんと片付くのかが問題だし、おそらくわからないのではないでしょうか。次から次へと問題が生じて、でもそれを技術革新によって対処してきたのが人類だとは思うのですが、遺伝子操作までは・・・というところですね。

>ゾウさん、ありがとう。
日常の中ではかぁ。少し話がずれるんですけど、悪気はないんだけどすごくおせっかいな人とか、たぶんいいことをしているんだから相手が嫌がることが想像できないんだよなぁ。こういう人困るんですよねぇ。
マラリアがすぐ治るワクチンは・・・たぶんないと思うよ。作ったらノーベル賞じゃないかな。
by kage (2006-01-20 15:26) 

heart_warming_place

凄く勉強になります!
by heart_warming_place (2006-02-09 23:38) 

kage

そうですかぁ。
とにかく気をつけていることは、記事をうのみにしないことです。なんかイヤミな性格になってしまうかもしれませんけどね(笑)。
by kage (2006-02-10 22:45) 

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